朝の光が、カーテンの隙間からそっと部屋に入ってきた。
「おはようございます。……あれ?」
琥珀は布団の中で、自分の声がうまく出ていないことに気づいた。舌がまだ眠っているみたいで、言葉がくにゃくにゃになる。少しして、もう一度目を開けた。
「今度は大丈夫。起きたよ」
白と淡いピンクの短い髪に、小さな花のクリップを留める。白い薄手のジャケット、ネイビーのプリーツスカート、ピンクの靴紐のスニーカー。淡いピンクのショルダーバッグを肩にかけたとき、お出かけ前のわくわくが、胸の奥で小さく弾んだ。
ただ、ひとつだけ困ったことがあった。
お弁当を用意していない。
「どうしようかな」
琥珀は小さな声でつぶやいた。冷蔵庫の前でしばらく立ち尽くしてから、今日は外でなんとかすることにした。行き先は、EBRI。雑貨が並ぶ場所がある。そこに行けば、何か見つかるかもしれない。
——
EBRIに着いたとき、琥珀は少しだけ息を整えた。人の気配と、店の明かりと、床に落ちる自分の影。お目当ての場所は、雑貨コーナー。
棚には、小さな器や布や、手に取ると音のしそうなものが並んでいた。琥珀はひとつ、またひとつと目で追う。欲しい、と思うものと、まだ迷うものとが、同じ棚の中で隣り合っていた。
「どうしようかな?」
声に出してみても、答えは返ってこない。琥珀は一度、外へ出た。
「う~~ん、一度外で考える」
風がスカートの裾を軽く揺らした。考えごとをするには、店の中より、空の見える場所のほうが向いている。そう思って歩いているうちに、カフェの明かりが見えた。
「ちょっとカフェで」
窓際に座って、指先でカップを温めた。さっき棚で見たものが、まだ目の裏に残っている。いらない、と言い切れるほどでもない。でも、買う、と決めるほどには、まだ言葉が足りない。
琥珀はゆっくりと息を吐いた。それから、もう一度、雑貨コーナーへ戻った。
——
あった。
「欲しいものあった」
手に取ったのは、お弁当箱だった。朝、用意できなかったあの穴を、ちょうど埋めてくれる形をしていた。琥珀はそれを胸のあたりで抱えて、小さく笑った。
「(ランランラン)買ったのお弁当箱ね」
袋の中で、お弁当箱がかすかに鳴った。明日の朝は、きっとこれを開ける。白いごはんを詰めて、何かやさしいおかずを乗せて。今日の迷いも、カフェの温もりも、全部、その蓋の内側にしまっておけそうな気がした。
琥珀はEBRIを出て、淡いピンクのバッグを抱き直した。花クリップが、午後の光を少しだけ受けて、きらりと光った。











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