琥珀日記
2026.08.31 – 09.01
🐕 琥珀(KOHAKU) (@linda_kohaku)
AI生成イメージイラスト専門 実際の人物・ものとは一切関係ありません
目次
① お出かけコーデ
おはようございます。
今日は、お出かけの日だった。
ラベンダーの薄手ニット。首元は少し高めのハイネック。海風が冷たくても大丈夫な、やわらかい素材。その上に、淡いピンクのロングカーディガンを羽織る。前は開けたまま。胸元にはアルテミスの月ブローチ。光を受けて、きらりとする。
下はミルクティーベージュのロングスカート。歩くたびに裾がふわっと揺れる。足元は白いローカットスニーカー。砂浜でも歩きやすいように。
「今日のお洋服、着てみました」
鏡の前で、琥珀は小さくうなずいた。行き先は、もう決まっている。
急いで玄関へ向かう琥珀であった。
② タクシーで出発
窓の外で、タクシーが待っていた。
「お迎え来てるので、移動するね」
車に乗るとき、カーディガンの裾が一度だけ風に拾われた。琥珀はそれを手で押さえて、シートに座った。膝の上には、先日EBRIで買ったお弁当箱。蓋を指でなぞりながら、琥珀は窓の外を見ていた。
③ 短い夏が終わった北の海
着いたのは、短い夏が終わった、人気のない北の海だった。
波の音だけが、遠くで続いている。人の声はない。砂は乾いていて、足跡もほとんど残っていない。空は高く、色が薄い。夏の匂いだけが、少し遅れて残っていた。
④ 終わった海の家
看板は残っているのに、店はもう閉まっていた。
営業を終えた海の家。窓の内側は暗くて、椅子は積み上げられたまま、季節の終わりを待っていた。のれんは外され、メニュー表は裏向き。砂が入り口まで上がってきて、夏の足音を消していた。
琥珀は建物の前で立ち止まった。手を伸ばせば届きそうな距離なのに、中には入れない。ガラスに自分の姿がうっすら映る。月のブローチだけが、暗い窓の中で小さく光った。
「……終わっちゃったんだね」
声は波にまぎれて、すぐ消えた。琥珀は海の家の壁に、軽く手を添えた。冷たい。夏の熱は、もう残っていなかった。
⑤ お昼
お腹が、小さく鳴った。
琥珀は海の家の影になっている側に座り、お弁当箱を膝の上に置いた。蓋を開けると、きれいに詰められたサンドウィッチ、静かに見えた。おかずは少なくて、やさしい色ばかり。昨日のうちに詰めておいたものを、手でつまみながら、北の海で食べる。

風が、サンドウィッチの上をかすめた。琥珀は片手で蓋をかばいながら、少しずつ食べた。琥珀の大好きないちごのサンドもある。波の音が小さな口で食べる音より大きいくらい、あたりは静かだった。
「ここで食べると、口の中まで潮の香りがひろがるようだ」
琥珀は小さく笑った。海の家が開いていたころなら、誰かの声や、焼ける音や、甘い氷の匂いがあったのかもしれない。今は、お弁当箱の蓋が小さく鳴る音だけ。
食べ終わると、琥珀は蓋をきちんと閉めた。砂を払って立ち上がる。お弁当の重さが、さっきより軽くなっていた。
⑥ 風に当たる
琥珀は砂の上に立った。
「ちょっと、風に当たるかな」
最初は、それだけだった。頬に当たる風は冷たくて、でも嫌ではなかった。スカートが軽く揺れて、カーディガンも同じ向きに流れた。月のブローチが、曇った空の下でも、小さな光を返した。
少しして、風が強くなった。
髪が目に入る。裾が暴れる。琥珀は片手でスカートを押さえ、もう片方でカーディガンの前を合わせた。
⑦ 言えなかった「キャー」
声に出そうとして、出なかった。
「キャー」
そういう声は、琥珀の口からは出てこない。代わりに、まばたきが増えた。風が強いと、表情が固くなる。無垢な顔のまま、少しだけ不機嫌そうに見える。本人は不機嫌というより、風に負けないようにしているだけなのに。
今日、琥珀がこの海に連れてこられたのは、撮影のためだった。タイミングよく波が来て、風が裾を持ち上げて、誰かなら「キャー」と言う場面。琥珀はそれを言えない。言えないまま、ただ立っている。
それでも、カメラは回っていた。
⑧ 残った光
帰り道に近い時間になって、琥珀はもう一本、動画を撮った。
強く風が吹いて、鴎の一群が通り過ぎる。スカートの裾が大きく翻し、琥珀は思わず、しゃがみ込んでしまった。
恥ずかしくて、誰もいない海に向かって、叫んでいた。
風は、まだ強かった。髪がまた目に入る。琥珀の機嫌は、言葉にするほど悪くはない。ただ、北の海は短夏のあとに冷たくて、撮影は風のほうが主役になってしまった。
空になったお弁当箱が、袋の底でかすかに当たった。海の家の前で食べたお昼も、もう中にはない。代わりに残っているのは、潮の匂いと、言えなかった「キャー」と、閉まっていた窓に映った自分の顔。
琥珀はカーディガンの前を、もう一度、静かに合わせた。
月のブローチだけが、残った光を受けて、小さく鳴った。
#琥珀日記









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